欲しい人がいなければ売れない、ということ
PSP go「プレイステーション・ポータブル go」 パール・ホワイト (PSP-N1000PW)【メーカー生産終了】
- 出版社/メーカー: ソニー・コンピュータエンタテインメント
- 発売日: 2009/11/01
- メディア: Video Game
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年末商戦を前にして発売された新型携帯ゲームハード2機種。PSP goとニンテンドーDSi LL(以下DSiLL)は、発売初週の売上げで、くっきり明暗が分かれたようです。PSP goは初週約3万台。対するDSiLLは、約10万台を販売。PSP goは日曜発売のため、集計期間は1日、DSiLLは土曜のため、集計期間が2日となりますが、それでもこの差は大きいところです。
どうしてこんなに大きな差がでたのでしょうか。細かく見ると色んな要素はあるのですが、1つ、とてもシンプルかつ大きな理由があります。それは、DSiLL は誰が買うのかはっきりしている商品で、PSP goは誰が買うのか分かりにくい商品であった、ということです。もう少し詳しくお話していきましょう。
■DSiLLは、欲しい人も欲しくない人も、理由は大きいから
DSiLLという商品は、ニンテンドーDS(以下DS)が欲しい人であればみんなが買うという商品ではありません。ニンテンドーDSi(以下 DSi)のバリエーションであり、DSiとDSiLLのどちらがいいか、利用する人や場面によってユーザーが選べるという位置づけの商品です。
では、DSiLLが欲しい人は、どんな理由で欲しがるか。答えは簡単で、大きいからです。大きい画面でゲームがしたい、大きいタッチパネルを使ったらタッチペンの操作も楽にできそう。そういう理由でDSiLLは選ばれます。
一方、DSiLLを欲しくない人の理由はどうでしょう。これも答えは同じで、大きいからなんですね。大きいと持ち運びに不便だから。大きいと重たくて疲れそうだから。欲しくない人は、そういう理由で買わないということが考えられます。
欲しい人の理由も欲しくない人の理由も明確で、それがDSiLLの特徴とピッタリ一致しているという点において、DSiLLは良い悪いの前に大変分かりやすい商品です。発売されてすぐ買ったおおよそ10万のお客さんは、大きいDSが欲しかった人ということになります。
次は、PSP goの欲しい理由と、欲しくない理由についても考えてみましょう。
■PSP goにしかできないことが分からない
DSiLLの1番の特徴が大きいことだとしたら、PSP goの1番の特徴はなんでしょうか。それは、オンライン専用機であるということでしょう。UMDドライブがなく、ゲームはオンラインに接続してダウンロード購入。メディアレスのゲームハードです。
PSP goが欲しくない理由というのは、わりとはっきりしていて、このUMDが使えないということがかなり大きいと思われます。お店でゲームを買いたい、今まで持っているUMDを引き続き使いたい、あるいはオンラインに接続できる環境がない、などが買わない理由になります。これはDSiLLの大きいと持ち運びに不便、に相当する部分で、商品の特徴を出すためにあえて手放しているところです。
ではこれがひるがえってPSP goを買う理由になるのか。ここに大きな問題があります。そもそも、オンラインでゲームをダウンロードするのはPSP goの専売特許ではありません。PSP-3000でもメモリースティックデュオにダウンロードすれば同じことができてしまいます。結果、PSP goが欲しい理由はかなりぼやけます。UMDも使えて、ダウンロード購入もできるPSP-3000に対して、はっきりとした優位性を打ち出すことができません。
少し面白いデータがありまして、PSP go発売週のPSP-3000の販売数。これがですね、約4万台を売り上げているんです。
PSP goが約3万台なので、それを上回ってしまっているんです。ですから、PSPというハードそのものは堅調に売れていて、その上で、PSP goとPSP-3000のどっちが欲しいかとユーザーに問いかけた場合に、最も話題性のある発売週ですらPSP-3000の方が選ばれているんです。
■欲しい人がいれば売れるし、欲しい人がいなければ売れない
このDSiLLとPSP goの差は、マーケティングの差であると言えます。マーケティングなんていうと小難しく感じるかもしれませんが、とても簡単な話です。
ある商品について、その商品が欲しい人がいれば売れます。欲しい人がいなければ売れません。当然ですね。じゃあ、欲しい人をどうやって探すのか、生み出すのか、そしてその為に商品をどういう形で世の中に送り出すのか、これを考えるのがマーケティングです。
DSiLL で言えば、DSの画面が大きくなりますよ、という1番の特徴を前面に出せば、大きいDSで遊びたいと思う人が手を挙げます。とてもシンプルに欲しい人を探せます。これがPSP goだと、オンラインでゲームがダウンロードして買えますよ、と言ってもPSP-3000と競合してしまいますので、PSP goが欲しいという人を探すことができません。これがDSiLLとPSP goの大きな差です。
あまりに単純に聞こえるかもしれませんが、この一見簡単な話は、ゲームのようなエンターテイメントの業界ではとても大切なことなんです。
■欲しい人を見つける作業が新しいものを生かす
欲しい人がいれば売れるのだから、じゃあみんなが何を欲しがっているか調査をしよう、というのは誰でも考えることです。いわゆる、マーケティングリサーチというものですね。ただし、エンターテイメントの業界においてこの調査は参考程度にしかなりません。
何故なら、お客さんにアンケートをして、お客さんからでてくるものというのは、お客さんの想像を超えないからです。エンターテイメントは、ビックリするようなこと、誰も考えつかないような新しいこと、そんなまさかと思うことをやった時に、大ヒットが起きます。つまり、本当にヒットするようなものを作ろうと思うと、マーケティングリサーチが通用しない業界なんです。
そして逆説的ですが、マーケティングリサーチが通用しないからこそ、マーケティングの発想そのものは非常に重要になります。お客さんに言われたものだけを作っているのではない、すなわち、作ったものを誰が欲しがるのか自分達で考える必要がある、ということです。
DSiLL とPSP goは、発売直後の売上げで大きな差がでました。それは、欲しい人がはっきりしているか、欲しい人がはっきりしていないか、の差が大きかったように思います。ただ、PSP goはスタートにつまづきはしましたが、ゲーム業界にとってはとても面白い存在です。
オンライン専用にすることでメディアレスを実現し、サイズもずっとコンパクトになりました。色んなゲームをPSP goの中に入れて常に持ち歩き、好きな時に好きなゲームを選んで遊べる、というようなゲームライフを提供できる可能性を持ったハードです。PSP goを今後どういう風に売っていこうかというのは、そういった新しいゲームライフに興味がある人を探す、あるいは生み出す作業でもあります。
そしてそれは、次の携帯ゲームハードの在り方の1つを示唆するものになるようにも思えます。今の状況では、なかなか欲しい人が現われないということは、まず分かりました。じゃあこの、新しい形のゲームハードを欲しい人はどうしたら現われるのか。それをこれからPSP goを伸ばす形で追求してくれることを期待したいと思います。
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